先月のbZ4X試乗の際に、日産のアリアもじっくりと観察してきた。実は街で走り始めてから結構気に入ってたのでありのままの感想。
アリアの感想の前にまずは車自体と関係ない文句をちょっと付けさせてほしい。この車、発表されたのが2020年の5月で、そこから受注が始まったのが2021年、納車され出したのは2022年から。もちろん半導体の供給不足があったのはわかるし、戦略的にも早めに発表してからちょっとずつ情報を小出ししてユーザーの関心を繋ぎ止めつつ他社への牽制をしたいんだろうけど、それにしたって発表してから納車開始まで2年はいくらなんでもやりすぎだし普通にデザインや技術の鮮度が落ちるという点でもマイナス。日産に限らず自動車業界で最近この焦らしプレイが流行ってるけど正直良くない。
まあでもそれはさておき、実際問題アリアは発表された時から好きだし、実物をじっくりみてそれは一層強化された。厳密な車としての出来は試乗してないので不明だけど、とりあえずフラッグシップ、イメージリーダーに相応しい車だと思う。
外観デザイン、これはもう抜群だと思う。3年も前に発表されて、納車が始まる前からティザーサイトとかキムタクのCMとかで擦られ続けて、しかも同じ世代のデザインで作られたノート、サクラ、セレナを街で見かけるようになっても、それらの車のデザイン路線の元祖としてまるで衰えることのない外観デザイン。これをまず褒めたい。
細目のヘッドランプとそこからテールランプのデザインまで繋がるキャラクターラインによる適度な緊張感。EVらしく短いオーバハングとボンネットを生かした凝縮感もあり、粘土をこねて作ったというより彫刻刀で塊を削って作っていったようなパキッとしたデザイン。それでいて無機質というわけでなく曲線的な美しさも感じる今までの国産車には珍しいデザイン。サイドの面の変化で表現される抑揚も良いんだけどこれが写真だとかなりわかりづらくて、実物を近くで見ないとわからない。
そして中に入ってみると、内装もまた質感高く、そして新しい提案に溢れてて素晴らしい。
まずEV専用プラットフォームなことを生かしてエアコンユニットを前方に押しやり、ミニバンみたいなウォークスルーを実現してるんだけど、一般的なそれと異なり足元空間まで解放されている。ラウンジをイメージした内装というだけあって開放感がすごい。
ダッシュボードは物理スイッチを極力排除して(これ自体は車の操作系としては良くないが)木目調パネルを横一直線にバーンと使用した贅沢感溢れるもの。(これの質感がかなり良い)そしてエアコンの操作パネルは木目調パネルにフワッと浮かび上がる。流行りのなんでも液晶パネルに集約とは違う路線で、それ以上に未来を感じさせるデザイン。
センターコンソールは電動調整が可能で、限界まで後ろに下げると大変解放的。逆に前に進めれば適度な包まれ感があってこれはこれで良い。
カーペットには枯山水のような模様があり、ドアの内張や足元には格子細工のような加工とデザイナー曰く日本の伝統工芸をモチーフにしたデザインが随所にあしらわれてる。格子細工の加工自体は単なるプラスチックの塊で大した質感ではないんだけど、奥に光源が仕組まれていてライトアップしてくるのがニクイ演出。単なるプラスチックの塊でも使い方次第でこんなに良さげな内装が作れるのかと驚いた。たまに国産の高級車で日本国内の素材を使用したとか日本の職人が加工したとかで日本的価値観をアピールすることがあるけど、ある意味アリアの内装はそれよりもはるかにわかりやすく日本の高級車像を体現した内装だと感じた。
質感自体もベースグレード530万からという値段なら良いものが使えるようで、横一直線の木目調パネルとか、ソフトパッドの質感も良いし、何より黒だけでなくグレーと青っぽい内装とベースグレードから3色選べるのも素晴らしい。あと随所に入っているカッパーのアクセントも良い。定番のアルミとは違う方向性で華やかな色合いだし何よりアルミほど見慣れない色、素材だからフェイクだと気づきにくい。
EV専用プラットフォームの全長の割に長いホイールベースのおかげで後席も広い。ラウンジをイメージしただけのことはあるくつろぎ感はあった。
今の時代、フラッグシップはセダンでなければならないという価値観は過去のものになりつつある。アリアみたいにSUVでも、あるいはミニバンとかステーションワゴンのフラッグシップがあっても良いと思う。けどどんなボディタイプの車だとしてもフラッグシップはそのメーカーの持てるものを全て注ぎ込んだ車であって欲しい。その意味ではデザインも中に入ってる技術もアリアは十分過ぎるほど合格してる。あとは車としてもよくできていることを期待したい。機会があればいつか試乗して確かめたいと思ってる。
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